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夏の思い出 #2

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夏の思い出 #2

 泳いだ覚えがないと言えば、僕は父が逗子の浜で泳いだという話を聞いたことがないのです。父は海軍の軍人で頑丈な男でしたから、いくらでも泳げたはずなのです。にもかかわらず、どうして泳ごうとしなかったのか? 

 僕はしばらくして、ふと思いました。やはりそれは、米軍の水泳施設があるからではないか、と。そして考えれれば考えるほど、そうに違いないと思えてきたのです。もしそうだとするなら、父親は当時の逗子の、夏季シーズンの賑わいをどう思っていたのか聞くべきではなかったか。

 不思議なことに、僕は父親が逗子の海岸で泳いだ姿を見たことがない。逗子の海岸近くにあった僕の家の前は、狭い道路があって、それが逗子の浜と鎌倉をつなぐ道になっており、夏場はいつもうんざりするほどに渋滞するのです。一日中、切れ目なしの渋滞です!

 それで僕は中学生の時に一大決心をし、その道路を一方通行にしようと考えたのです。まずは住人に署名をもらわなくては、と何百軒もの家を回ったのを覚えています。山の上の石原慎太郎の家まで行ったものでした。そしてそれが見事にかなって、それ以来、我が家の前の道は海岸へ一方通行道路になっているのです!

 それはともかく、人生には、取り返しのつかないことが沢山あるようです。僕はそう思います。特に父親には、聞き逃したことが山ほどあるような気がします。皆さんはそんなことがないように、日頃からきちんと目を開けて、取りこぼしがないように注意してくださいね。 

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山本光伸プロフィール

 札幌で出版社・柏艪舎と文芸翻訳家養成校・インターカレッジ札幌を経営しています。
 80歳で小説家デビューを機にブログをはじめました。
 ロバート・ラドラム『暗殺者』、アルフレッド・ランシング『エンデュアランス号漂流』(新潮社)、ボブ・グリーン『デューティ』(光文社)他、訳書は200冊以上。

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