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ラグビーと剣道 #1

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ラグビーと剣道 #1

 さて、もう少し楽しい話にしましょうか。どうもここ十年ばかりは、このような苦しい話ばかりで我ながら悔しく思っているのです。さて現在、ラグビーのワールドカップがフランスで行われています。ラグビーは僕の一番好きなスポーツなので、もちろんテレビに噛り付いています。

 ところが、四年前の、日本で行なわれた対アイルランド戦では大失敗をしてしまいました。立ち上がりに立て続けにトライを決められ、いつものように大敗を予想した僕はランニングに出てしまったのです。

 ランニングをしながらも、翌日の新聞紙上の、歴史的かつ屈辱的敗戦の文字が目に浮かんでくるのです。それでも結果を知りたくて、一時間ばかりで帰宅しました。玄関を開ける前から、女房の大声が聞こえてきました。ついぞスポーツ観戦などしたことのない女房が、熱くなって「行けぇー!」と叫んでいます。まさか! そのまさかだったのです。

 スタンドで大勢の日本人が泣いています。僕の友人などは、後半ずっと涙が止まらなかったそうです。番狂わせが最も生じにくいラグビーでのこの勝利は、実力に裏打ちされた“奇跡”とでも表現したらいいのでしょうか。大柄な外国選手の突進に対し、日本はダブルアタック、つまり二人掛かりで止める作戦を取り、それが見事図に当たったわけです。日本人選手の運動量は普段の試合の二倍、三倍の達したのではないでしようか。にもかかわらず、後半は明らかに相手のスピードが落ちてきました。これは実に驚くべきことなのです。

 ラグビーの試合でどちらが優位に立っているかは、パスを受ける選手がどれだけスピードに乗っているかを観ればわかります。フルスピードで走りながらパスを受ければそのまま突進して行けますが、そうでなければがくんと勢いが落ちてしまうのです。そうなればブロックも容易になり、それが勝敗を分ける大きな要因になるのはおわかりいただけるでしょう。

 日本中がラグビーのもたらした興奮に酔い痴れているかのようでした。そして心配性の僕はこうも考えたのです。これは果たして愛国心の発露なのだろうか。この愛国心は、排他主義と手を携えているのだろうか、と。

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山本光伸プロフィール

 札幌で出版社・柏艪舎と文芸翻訳家養成校・インターカレッジ札幌を経営しています。
 80歳で小説家デビューを機にブログをはじめました。
 ロバート・ラドラム『暗殺者』、アルフレッド・ランシング『エンデュアランス号漂流』(新潮社)、ボブ・グリーン『デューティ』(光文社)他、訳書は200冊以上。

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