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翻訳
翻訳裏話ーーロバート・ラドラムの思い出 #3
翻訳裏話ーーロバート・ラドラムの思い出 #3 それからは大変だった。僕が空手をやっていることを伝えると、自分は陸軍で格闘術を教えていたと言い、二人でいろいろと実践する破目になったのだ。天麩羅屋の店内でのことだから、互いに手を抜くところは抜いたのだろうが、背がだいたい同じくらいの我々二人がまるで喧嘩しているような大騒ぎになった。 -
翻訳
翻訳裏話ーーロバート・ラドラムの思い出 #2
翻訳裏話ーーロバート・ラドラムの思い出 #2 さて当日、こちらは新潮社の女性編集員と、著作権事務所タトル・エージェンシーの代表、そして僕の三人はラドラム夫妻を出迎えた。ミセス・ラドラムは女優をしていらしたとかで美しい女性だった。そして肝心のラドラム氏は……それがなんとも冴えない人なのである。青のワイシャツ姿にズボン、どこから見てもそこいらの野暮親父と同じなのだ。こちらがテレビなどで見た颯爽たる中年男性はどこに行ってしまったのか? -
翻訳
翻訳裏話ーーロバート・ラドラムの思い出 #1
翻訳裏話ーーロバート・ラドラムの思い出 #1 今回はひとつ、何十年も前にロバート・ラドラム氏とお会いした時の話を書いてみたい。 もう三十年以上も前の話しだし、かなりうろ覚えのところもあるが、我が翻訳家人生では実に楽しい思い出になっている。 -
人生について
僕のヒーロー長嶋茂雄 #2
僕のヒーロー長嶋茂雄 #2 そんなことがあってしばらくしてから、僕はオークラ・ホテルの会合に呼び出され、夜中の十一時頃に、地下の駐車場に向かって歩いていた。人は誰もいない。無機質な蛍光灯が点っているだけで、地下の細長い通路が五十メートルほど続いている。と、行く手のドアがサッと開き、イガグリ頭の中年の男が入って来た。薄いブルーのスーツだった。似合っているなと思った。 -
人生について
僕のヒーロー長嶋茂雄 #1
僕のヒーロー長嶋茂雄 #1 今回は話題を変えて、野球の長嶋茂雄選手の話をしましょうか。僕にはいろいろと素敵な有名人がいるが、この長嶋さんだけは別格なのだ。年齢も彼が少し上で、似通っている。彼が大学時代に神宮球場で活躍していたころからのファンだった。 -
翻訳
僕の翻訳流儀―オリジナルを書くように訳す #2
僕の翻訳流儀―オリジナルを書くように訳す #2 そして今、オリジナル作品についても同じことが言えるような気がしている。最初は、翻訳と同じように、最初から最後までの成り行きを頭に入れていた。しかし今は、一読者になって作品を書いているのだ。いざコンピューターの前に座っても、何を書くかはわからない。いや、そうではないな。主人公の一人や二人については詳細なデータを頭に入れている。ただ彼らがどう動いて何をするかが決まっていないのだ。 -
翻訳
僕の翻訳流儀―オリジナルを書くように訳す #1
僕の翻訳流儀―オリジナルを書くように訳す #1 先日、ある質問を受けた。一冊の本を訳し始めてから終えるまでのスケジューリングについて教えてくれ、と。その時は、僕には何も変わったことはないから、とお断りしたのだが、また別の方から同じような質問を受け、僕も恥を晒す決心をしたわけだ。 -
翻訳
翻訳家の事件簿-最終章 書き足し事件 #2
翻訳家の事件簿-最終章 書き足し事件 #2 これは、僕が意図したように、あっさりと引き下がれる問題なのか、ということです。僕は構わないにしても、編集者はどうなのか。原稿をきちんと検索していないことがはつきりしているではありませんか。彼とはもう何十年もの付き合いで、互いの手の内はわかっていると言うつもりだったのでしょう。しかし、担当者が渡された原稿を見ないとは? -
翻訳
翻訳家の事件簿-最終章 書き足し事件 #1
翻訳家の事件簿-最終章 書き足し事件 ① 話は違うが、翻訳で最後の章を30ページほど書き足した例をお話したい。それは某大手出版社から依頼された英国ミステリーだった。ミステリーと言っても、ドンパチやり合うような物ではなく、登場人物たちの心理描写がぶつかり合う深刻な作品でした。 -
小説
小林龍一さんの個展「FAMILIA」を観て ②
小林龍一さんの個展「FAMILIA」を観て ② 僕は現在、札幌で出版社を運営している。すでに20年を経ているのだが、今は芥川賞作家、丸山健二氏の作品集の出版に失敗し、出版社としてどん底の数年を過ごしている。もう潰れたかと思っている友人・知人も多いことだろう。