畑 正憲氏の思い出 ②
私は度肝を抜かれた。これこそが恐らくは、先生の魅力の神髄なのだろうと思ったのだ。必要な時に百パーセントの力を発揮する、それこそが先生の真の魅力なのだ。その夜は札幌で食事をした。レストランに入ると、先生に気づいた女性たちが手を振ってくれた。先生もそれに応える。その時にはもう、テレビで見るような好々爺に戻っているのである。
昨夜も、テレビで先生の動物との触れ合いを見た。ゴリラ、象、ライオン、タスマニアデビルなどと世界各地で遊ぶのだ。私は涙に暮れてしまったが、先生はどの場面でもあの笑みを絶やさず、動物たちと転げまわって遊んでいるのだ。また動物たちも、彼を仲間として受け入れているのがよくわかる。各地の動物園の係員たちがびっくりしているのが面白い。
これは別格である。先生の態度には逡巡がない。あるいは人に見せようと言う意識がない。ごくごく自然なのだ。先生の真似をしようとする人もいるようだが、まずは己を知ることから始めなくてはなるまい。さもないと大怪我をすることになる。
このような人が亡くなってしまった。何とも残念なことである。先生の特徴は、他人に真似のできないことをやるということだ。この点を見誤らないように注意しなくてはならない。彼には独特の動物性があるのだろう。私はそう思う。
ところで、先生の肩書で一番適切なものは何か、と考えてみよう。その純真無垢にして豊かな感性での動物・自然とのかかわりは多くの支持を受けているが、氏の本質はやはり、英文学者であると私は思う。その英文学者がかように動物とたわむれることこそがたまらなく面白いのだ。
先生、さようなら。また次の世でお会いしましょう。有難うございました。