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翻訳裏話ーーロバート・ラドラムの思い出 #1
今回はひとつ、何十年も前にロバート・ラドラム氏とお会いした時の話を書いてみたい。
もう三十年以上も前の話しだし、かなりうろ覚えのところもあるが、我が翻訳家人生では実に楽しい思い出になっている。
ラドラム夫妻が東京に来られる、と聞いてびっくりしたのを今でも覚えている、当時の彼は、アメリカを代表する作家であり、一時はアメリカのエンターテインメント界でも飛び抜けた人気を誇るスーパースターだったのだ。
有難いことに僕がその翻訳家だった。彼の作品は余りにも多く、とても僕一人では処理しかねる状況で、一部は角川書店や講談社などからも別人の訳で発表されている。僕はそれらすべてを一任されていたのだが、途中で思い余って新潮社側に連絡し、僕には不可能な部分の翻訳作品を他の人に頼んだことがある。
今考えると、僕は本当に生意気だったようだ。何しろ、ラドラムの新作を読み、面白いなとは思っても、こんなものは俺にも書ける、といつも思っていたのだから。
その彼が日本にやって来る! 僕はショックを受けた。前述したとおり、世間知らずの僕は、アメリカのエンターテインメント作家などは大したことがないと思い込んでいたのである。