目次
翻訳家の僕が小説を書いてきた理由
先に述べたように、僕は30歳頃から自分の作品を書いてきました。もうすでに30冊を超えているくらいです。しかし小説を書くという目的は、あくまでも趣味のため、あるいは翻訳家という職業に飽き足らない思いがあったからなのです。
自分で小説が書けないなら、文芸翻訳家にはなるべきでないという強い思いがありました。つまり、原著者と互角に対峙できない人間にどうしてその作品を翻訳できるのか、ということです。
僕はその書き溜めたうち二冊を文芸誌の新人賞に応募したことがあります。もう何十年も前のことです。結果は二つとも二位でした。両方とも担当記者から手紙をもらい、次作に期待するというありがたい言葉か付いていたのです。特に二作目の作品については、選者の作家から“ 傑作 ”との評価をいただいたほどでした。
僕はそれですっかり安心し、あとは自分の好きな時間に好きな作品を書く、という作業に熱中してきました。仕事場には幾つものオリジナル作品が顧みられることなく散乱しています。僕は自分が好きなことをやっているのだから無理はないと思っていました。
文芸翻訳家の僕が80歳で小説家デビューするまで ⑦
80歳で小説家デビュー!
そして3年前、脳梗塞から復帰したものの、会社での仕事のほとんどがなくなり、僕は自作品を充実させようと考えたのです。