目次
山本光伸の翻訳教室 ⑧
☆距離
文芸翻訳にとって大切なものは、原文と訳文との距離感だろう。初心者であればあるほどほどこの距離感に無頓着で、テキストが何であれ、自分のリズムでしか訳せない。
私の経験では、原文の密度が高いほど訳文との距離が短く、つまり直訳調になり、その距離が広がるほど意訳が多くなるようだ。
読者がいちばん迷惑するのは、直訳と意訳が入り混じった文章だろう。難解な部分は直訳で切り抜け、わかりやすくなるととたんに意訳に花が咲くというのがよくあるパターンだ。したがって、訳出にかかる前に、今回は何センチとあらかじめ距離を決めておく必要があるだろう。
『R・チャンドラーの「長いお別れ」をいかに楽しむか』の場合、村上氏の訳は20センチ、清水訳は50センチと勝手に思い込み、自分は40センチほどで行こうと考えた。それが果して功を奏したのかどうか、それはみなさんに教えていただくしかない。
しかし問題は、翻訳者のほうにその何センチかの測定ができない場合がある。それができるだけで、技術的には相当なものがあるわけだ。あとは表現力!! この表現力+先の技術力があれば、あなたは、たぶん、人気のある翻訳家になれるだろう!
山本光伸 翻訳教室 ①
山本光伸 翻訳教室 ①
僕はこれまでに、柏艪舎から翻訳に関する本を2冊出しています。『誤訳も芸のうち』と『R・チャンドラーの「長いお別れ」をいかに楽しむか』です。一作目は、文藝翻訳は一生の仕事足りうるか、という副題が付き、二作目は、清水俊二、村上春樹、そして山本光伸の訳文を併記し、何所がどう良くて何所がどう悪いのかを列記しています。また翻訳と言う作業のコツみたいなものがわかってもらえるかもしれないとも書いてあります。
山本光伸 翻訳教室 ②
山本光伸 翻訳教室 ②
ここには誤訳が一つと、僕が先ほど得意げに述べた、日本語と英語の表現方法の明確な違いがあります。この二つに僕が気付いたのは、丁寧に英文と日本文を読み比べたからではなく、あくまでも英文(つまり訳文)を読んでいて、おかしいなと思ったからなのです。僕がいつも言っている、オリジナルを書くように訳せ、の面目躍如と言ったところですね。
山本光伸 翻訳教室 ③
山本光伸 翻訳教室 ③
ではついでにもう一つ、スティーヴン・キングの秀逸な短編『ウェディング・ギグ』(The Wedding Gig)の中に、次のような一節があります。この短編は、妹思いの愛すべき小悪党スコレィの、大いに愉快で、ちょっぴり切ない物語です。
山本光伸の翻訳教室 ④
山本光伸の翻訳教室 ④
☆文芸翻訳家への近道
言うまでもなく、近道などあるわけがなく、より“確実な道”と言い換えるべきだろう。
それは、自分で小説を書いてみることである。
山本光伸の翻訳教室 ⑤
山本光伸の翻訳教室 ⑤
☆文法について
乱暴な言い方かもしれないが、文法に拘る方で翻訳家として一本立ちした人を見たことがない。
山本光伸の翻訳教室 ⑥
山本光伸の翻訳教室 ⑥
☆automatically
私は副詞の訳し方がいちばん難しく、だからこそいちばん面白いと思っている。
山本光伸の翻訳教室 ⑦
山本光伸の翻訳教室 ⑦
☆原作の香り
文芸翻訳家志望の方の中には、原作の香りを生かした翻訳をしたいと考える人が多いようだ。
山本光伸の翻訳教室 ⑧
山本光伸の翻訳教室 ⑧
☆距離
文芸翻訳にとって大切なものは、原文と訳文との距離感だろう。初心者であればあるほどほどこの距離感に無頓着で、テキストが何であれ、自分のリズムでしか訳せない。
山本光伸の翻訳教室 ⑨
山本光伸の翻訳教室 ⑨
☆訳者と読者
翻訳家は自分の訳した原文をどれほど覚えているものだろうか。個人差があって当然だが、私はほとんど覚えていない。