目次
山本光伸の翻訳教室 ④
☆ 文芸翻訳家への近道
言うまでもなく、近道などあるわけがなく、より“確実な道”と言い換えるべきだろう。
それは、自分で小説を書いてみることである。そして数多ある新人賞に片っ端から応募してみるといい。しかしその結果が重要なのではない。自分で物語を構想し、登場人物に血肉を与え、彼らの喜怒哀楽を表現してみることが大切なのだ。
その努力を重ねるうちに、いろいろなことが見えてくる。まっさらな原稿用紙を前にした物書きの高揚感や、文章を紡ぐうえでの苦しみがわかってくる。そういったことに無関心でありながらなお、文芸翻訳家になろうと考えるのは図々しすぎるのではないか。
何度も言うようだが、翻訳に正確さだけを求めるなら、コンピューターに任せておけばいい。自分の日本語で、原作をより良い作品にしてみせる。そんなことが可能かどうかはわからないが、そういう意気込みだけは忘れてならないだろう。
翻訳家から作家に“転向”した例はいくらでもある。しかしその逆の例は聞いたことがない。つまり、翻訳家にとって作家になることは、ワンステップ・アップなのだ。では、作家から見た翻訳という作業はどうなのか。翻訳とはそういうものだ、という考え方もあるだろう。そう思う人はそれでいい。
私はやはり、プロの翻訳家の訳した翻訳作品を多くの読者に読んでいただきたいと思う。しかしそのためには、我々翻訳家の側が、技術的な翻訳に甘んじることなく、表現者としての翻訳家になる努力をしなければならないだろう。
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山本光伸 翻訳教室 ①
山本光伸 翻訳教室 ①
僕はこれまでに、柏艪舎から翻訳に関する本を2冊出しています。『誤訳も芸のうち』と『R・チャンドラーの「長いお別れ」をいかに楽しむか』です。一作目は、文藝翻訳は一生の仕事足りうるか、という副題が付き、二作目は、清水俊二、村上春樹、そして山本光伸の訳文を併記し、何所がどう良くて何所がどう悪いのかを列記しています。また翻訳と言う作業のコツみたいなものがわかってもらえるかもしれないとも書いてあります。
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山本光伸 翻訳教室 ②
山本光伸 翻訳教室 ②
ここには誤訳が一つと、僕が先ほど得意げに述べた、日本語と英語の表現方法の明確な違いがあります。この二つに僕が気付いたのは、丁寧に英文と日本文を読み比べたからではなく、あくまでも英文(つまり訳文)を読んでいて、おかしいなと思ったからなのです。僕がいつも言っている、オリジナルを書くように訳せ、の面目躍如と言ったところですね。
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山本光伸 翻訳教室 ③
山本光伸 翻訳教室 ③
ではついでにもう一つ、スティーヴン・キングの秀逸な短編『ウェディング・ギグ』(The Wedding Gig)の中に、次のような一節があります。この短編は、妹思いの愛すべき小悪党スコレィの、大いに愉快で、ちょっぴり切ない物語です。
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山本光伸の翻訳教室 ④
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☆文芸翻訳家への近道
言うまでもなく、近道などあるわけがなく、より“確実な道”と言い換えるべきだろう。
それは、自分で小説を書いてみることである。
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☆文法について
乱暴な言い方かもしれないが、文法に拘る方で翻訳家として一本立ちした人を見たことがない。
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山本光伸の翻訳教室 ⑥
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☆automatically
私は副詞の訳し方がいちばん難しく、だからこそいちばん面白いと思っている。
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☆原作の香り
文芸翻訳家志望の方の中には、原作の香りを生かした翻訳をしたいと考える人が多いようだ。
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山本光伸の翻訳教室 ⑧
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☆距離
文芸翻訳にとって大切なものは、原文と訳文との距離感だろう。初心者であればあるほどほどこの距離感に無頓着で、テキストが何であれ、自分のリズムでしか訳せない。
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山本光伸の翻訳教室 ⑨
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☆訳者と読者
翻訳家は自分の訳した原文をどれほど覚えているものだろうか。個人差があって当然だが、私はほとんど覚えていない。