破滅への道? ④
それからです、弊社の真の暗黒時代が始まったのは。僕が脳梗塞で倒れ、三週間入院したのもその頃です。退院してみると、弊社は破産寸前に陥っていました。寸前などと言う生易しい状況ではなく、誰に聞いても黙って首を振るだけだったのです。
弊社のほかの作業も全滅していました。二年から三年の間、通常出版も自費出版も放っていたのですから当然でしょう。収入はまさにゼロ、借金は今回の全集の印刷代だけで2,500万円が残っているのです。これまでの借金と合わせ、一億円以上のお金をどう返していったらいいものか。
しかし退院して社員たちの顔を見ると、僕は何となく安心してしまいました。不思議なことに、誰もが明るい、爽やかな顔をしているのです。どうやら彼らは、僕が入院中に、弊社の行く末について話し合い、結論を得ていたようなのです。つまり。自費出版一本で建て直しを図ろうと。言い換えれば、建て直しが図られるまでは、自費出版以外の作品には手を出さないと言うことです。
はっきり言って、僕は自費出版なるものがあまり好きではありません。しかし彼らの決定には潔く応じることにしたのです。自費出版は順調です。と言っても、給料は月に10万弱ほどと少ないのですが、今は借金を返す時だという彼らの決心は固く、僕も彼らを見習うばかりです。
そうして三年ばかりが過ぎました。僕は八十の坂を越えました。いったいどうなるのかと不安は不安でしたが、今はその不安も姿を消しつつあります。お話したとおり、僕には多額の借金があります。この借金も90歳までの完済を決意しています。そのためには、いえ、そればかりでなく、会社の収益を上げるためにも、僕は自分がこれまでに書いてきた〝小説〟で何とかしたいと考えているのです。
現在30冊くらいあるのですが、それらを3年間ほどで順次紹介し、その間にまた新たに書き進めたいと思います。文藝翻訳家は自分の小説を書くべきだ、という思いで書いてきたのですが、いよいよ皆さんのお目に触れることになったのです。お読みいただき、ご感想をお聞かせいただければ誠に嬉しく思います。