さて、皆さん、そろそろ退屈気味ではありませんか? そこで今回からしはらく、僕の古いファイルから、過去に書いたものを幾つかご紹介したいと思います。それは数にすれば一千点近くもあるのですが、その中から、自分の意見が今と変わっていないもの、あるいはもしあったならば、その理由をきちんと述べて、ほんの幾つか、そうですね、30点くらいをご紹介したいと思います。10年、20年前の原稿で、内容も文の調子も全く変えていませんので、少々可笑しいところもあるかもしれません。しかし過去を現在に蘇らせることにもまた、新たな発見があるような気がしています。もし読んでいらした方がありましたら、ご勘弁下さい。
武道家との出会い ①
僕には武道家の知人が沢山います。当然ながら、尊敬に値する人もいれば、そうでもない人も。たとえば、かつて鎌倉で気功を教えていたI君です。ある年の暮れに、湘南剣友会の友達20人ほどで鎌倉の飲み屋に行ったところ、そこにI君と彼の武道仲間(弟子たち)がいたのです。するうちに、彼にちょっと遊んでみましょうと誘われました。何をしたかというと、我々は5センチぐらい離れて正座して相対し、I君は好きに殴ってくれと僕に言って膝の上で指を組み、顔を俯けて目をつぶってしまったのです。
僕は何をふざけているんだと思いましたね。僕は自慢じゃないがパンチは早いし、というのも大学時代の5年間、僕は松濤館の空手を習っていたのです。こんな近くにいる相手を殴れないわけがありません。しかも居合わせた40人ほどが興味津々といった顔つきで見守っているのです。仕方なく、僕は遠慮がちに、寸止めするつもりで正拳突きを出しました。ところが次の瞬間、僕は腹に一発食らって引っくり返ってしまったのです。しかもI君は目をつぶったままだ。
よし、こうなったらこっちも意地だ、と思いました。I君が鼻血を噴き出して悶絶しても自業自得。そう腹を括って、2度目をお願いしました。今度は気合も無しの正拳突きです。そしてもちろん、同じことが起こったのです。僕は一メートルほど後ろに飛んで、壁に頭をぶつけてしまいました。
これをどう理解したらいいか、僕は途方に暮れてしまいました。しかもI君は涼しげに、「さっき気を入れて殴っていたら、あなたは死んでいますよ」と言うのです。