恐山の魅力 ②
僕はそれまで、ここで死ねたらいいのに、なんて思ったことは一度もありません。それがふとそう思ったのですから、やはり不思議な気がしますね。浜辺には人の足跡もなく、僕はそこに腰を下ろしてじっとしていました。見えるのは一切のものが絶えて久しい水面と、周りを取り囲む低い山並みだけでした。2時間ほどそうしてから、僕は恐山を去りました。
それから何年かして、柏艪舎の“遠足”があり、何人かの社員と一緒に恐山に行きました。しかし、女性たち数人の調子がおかしくなってしまったのです! 頭痛を訴える者、表情がゆがんでしまった者、あるいは震えている者――みんな自己暗示にかかっているのか、明らかにいつもとは違っているのです。早くここを出ようという声が上がり、僕もしかたなく車をスタートさせました。
考えてみれば、おかしな話です。みんな駐車場に止まった時から入るのは嫌だと言い出し、中に入ってからは帰ろう、帰ろうの大合唱になったのです。しばらく走ってみんなを見ると、顔色ももとに戻り、何ということもなくなっています。いったいどうしてそんなことになったのか、僕には見当もつきませんでした。
しかしひょっとしたら、彼女たちの感性のほうが事態に即しているのかもしれない、そんなことも思いました。彼女たちはまだ若い“生者”であり、恐山からは入山を禁止されているのかもしれない、と。そうなると僕の方は立つ瀬がありませんね! 僕はもうその中の住人であるかのように平然としていたのですから。
だけど、僕は何となく愉快でした。僕はとにかく、恐山を楽しんだのですから。その後はいつも、一人か男の友人と行っています。恐山は素晴らしい。日本にあってよかったとつくづく思います。しかし、これは僕の個人的な感想であることをお忘れなく。