即断即決の男 ③
どうしょうか、と僕は思いました。とそのとき、電車は新宿に到着し、僕は他の乗客に押されるように降りてしまったのです。ああ、と僕は思いました。俺は逃げたんじゃないのか、という思いが込み上げてきたからです。僕は朝日生命の剣道場に歩きながら、もしあの若者が知人だったらどうしていただろうと考えました。
まさか、のんびりと追いかけっこをしたわけじゃあるまいな、と言う声が聞こえます。お前はあそこで足踏みをしたんじゃないのか。その声に押されるように、僕は立ち止まってしまったのです。卑怯者! 卑怯者! いったい何が即断即決だ!
僕はその声に打ちのめされ、動くことも出来ませんでした。僕の精神の暗部にはそのようなこともあったのです。しかしたとえそのようなことがあっても、それが自分の精神の〝暗部〟だとは思わない人もいるでしょう。それが果たして、当人にとって幸せなことなのか、僕は考えざるを得ません。
僕は弱い人間だと思います。それを認めるのが嫌さに、蛮行をふるうこともあるのですが、80歳まで生き延びたことを考えると、自分の弱さが勝ったのだと考えざるを得なくなるのです。自分の性格には、基本的に〝弱さ〟がある。そのことを認めざるを得ませんね。
もう一度〝自分の性格〟を考えてみると、僕にはやはりこの性格は特別な意味があるとは思えません。僕はもう少し、周りの意見に耳を傾けるべきだったと思うのです。取り分け、北海道に移ってからの僕の慢心ぶりは問題です。常に一人きりの判断が求められ、僕はそれこそが自分の生きる道だと得意でさえあったのです!
本当に、もう一度、北海道へ移住するところからやり直せたらと思います。そうすればすべてが上手く行ったのに、とはとても思えませんが、少しは、ほんの少しだけは変化があったのではないかと思うのです。ああ、やり直してみたい。僕は今、心の底からそう願っています。