海外旅行は好きですか? ②
それだけ〝旅〟が好きだったにもかかわらず、帰国後20年ばかりはまったくどこにも行かなかったのです。自宅で翻訳をし、剣道に励んでいたのです。しかしこの“沈黙”の20年間があったからではないでしょうか、オートバイに乗ってからは一気に中学・高校時代に戻ったような気がします。もうほとんど狂ったようにバイクを乗り回すのですから、馬鹿丸出しです。
それ以来、僕は一度も電車や飛行機に乗っていません。常にバイク(45歳以降、冬場は車)を乗り回していたのです。いったい何が言いたいのか? つまり僕は旅行が大好きだということです。にもかかわらず、20歳から80歳になるまで、一度として海外に出てはいない。これはやはりおかしいのではないか、と思います。確かに自立神経失調症に罹って以来、その間は飛行機に乗るのは嫌でしたが、もう全快しているのです。
北海道を100回以上、三週間ばかりもうろうろしているのですから、当然、世界に出てもいいはずです。そうは思うのですが、僕の関心はやはり日本に向けられているようなのです。それにしても、と今は思います、若い時にアメリカで一年間過ごすことができたのはまさに天佑神助だったのだ、と。
たぶん僕の性格からして、この一年があるからこそ、以後ずっと日本に留まっていられるのだと悠然と言えるのでしょう。もしその一年がなかったら、僕はやはり外国に出て行かざるを得なかったように思います。ただし僕がアメリカへ行ったのは、もう60数年前のことです。そんな昔のアメリカを相手にしていいのかという気もします。
例えば、僕が90歳でアメリカを再訪するとします。もう知っている人はほとんどいないでしょう。となると、何のための旅行なのか、という気がします。西も東も分からぬアメリカで果たして僕はまた友情を覚えるのか。新しい友情と60年前の友情に甲乙は付け難いものの、やはり僕は60年前の友情をこそ信じたいと思います。
旅行は旅行、旅は旅だという話がありますね。僕ははっきり申し上げて、旅行は嫌いです。旅行をするくらいなら、僕はやはり自宅近辺をランニングしていたほうがいいようです。しかし“旅”は何となく男の世界を感じます。女性に振られて“旅行”に出る、ではつまりません。やはり“旅”に出て、ひとり静かに我が身の行く末を考える。これがない旅行はどうしても、僕には温泉旅行としか考えられないのです。