破滅への道? ③
私はすぐに信州に向かい、先生にお会いして契約を済ませました。契約は済ませたものの、僕はこれで本当にいいのだろうか、これが現実の出来事なのだろうか、という思いにしばし囚われていました。先生の作品を英語訳し、外国で出版するという許可もいただき、僕は本当に生まれ変わったようにして札幌に戻ったのでした。
それからきっちり二年間、柏艪舎の全員が嵐のような境遇を過ごしました。今考えても、あれは嵐としか呼びようのないものでした。何しろ社内の八人全員が朝から晩まで全集作成の作業に携わったのですから。
社内の雰囲気も一変しました。全員が一つの作業に精を出すという〝異常〟な事態が出現したのです。柏艪舎は出版社ですから、当然、いろいろな部署があります。それがいきなり、会社というよりも、一部門のような状況を呈したのです。僕の関心は自分のやることだけ、みんなもそのような感じで、会社でも自宅でもそれを押し通し、特におかしいとも思いませんでした。
その〝無理〟がたたって、二年を終えたところで大爆発が起こったのです。詳細はまたいずれ明らかにしますが、これは明らかに我々の側に無理があり、その点は誠に先生に申し訳なく思っています。ともあれ、先生は妥協案を良しとせず、そこで中止の判断が下されたのです!
僕には思いもかけない衝撃でした。全身の血の気が引くような、足元が崩れるような感覚に襲われたのです。もう僕ではありません。お互いに罵り合ってガチャンと電話は切れました。その時、他の社員に知られたくないと思って会社の入り口で電話していたのですが、ふと前のガラスを見ると、何とも形容し難い僕の顔が映っていました。死者の顔と言えばいいのでしょうか。
柏艪舎より刊行した『完本 丸山健二全集』