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三島由紀夫事件について ③ ——「三島はともあれ森田の精神を後世に向かって恢弘せよ」

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三島由紀夫事件について ③ ——「三島はともあれ森田の精神を後世に向かって恢弘せよ」

 それにしても、と僕は思いました、三島先生はなぜ死ななければならなかったのか、と。あの日、彼らの中には将来の展望は何一つありませんでした。そのように思います。三島はともあれ森田の精神を後世に向かって恢弘せよという指示以外には何も見当たらない。だとしたら、楯の会はあの時点で解散すべきではなかったか、という思いもあります。

 Tのその後を見るにつけ、その感を深くします。今の彼は七十を超え、病気に悩まされています。他人とはほとんど会うこともないようです。もしあそこで解散していれば、彼ももっと自由な(!)――僕にはそれがどんなものかはわかりませんが――人生があったのではと思われます。

 では僕はどうなのか? 僕は未だに三島精神に深く動かされています。楯の会隊員ではないものの、その精神はしっかりと受け継いでいるつもりです。Tにもそのような自由が欲しかったと思います。皆さんはどう思われますか? 

 僕は、精神を受け継いでいる、と書きましたが、楯の会隊員たちは行動を受け継ぎたいと願っているようなのです。精神と行動、どちらが大切なのかよくわかりませんが、三島先生がかつて、「精神は捨てた。あとは行動があるのみだ」とおっしゃったのを覚えています。最後の最後でおっしゃった三島先生の言葉の意味はよく分かります。

 しかしそれまでは、つまり最後の瞬間が来るまでは、人間は精神と行動の両方を一身に維持しなければならない。そうでなければ蛮勇の徒ということになってしまいます。楯の会の隊員すべてがそうだというわけではありませんが、三島先生に続いて一刻も早く何かしなければ、という思いに囚われた人が多かったように思います。

 しかし、これ以上言うのは辞めましょう。三島精神は団体ではなく、個人の中に生きていると考えたほうがいいように思います。そしてまた次の時代に、同じ精神性を宿した人間が現れて大活躍してくれるのではないでしょうか。

〈柏艪舎で刊行した『火群のゆくへ』元楯の会隊員たちへのインタビューをまとめた〉

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山本光伸プロフィール

 札幌で出版社・柏艪舎と文芸翻訳家養成校・インターカレッジ札幌を経営しています。
 80歳で小説家デビューを機にブログをはじめました。
 ロバート・ラドラム『暗殺者』、アルフレッド・ランシング『エンデュアランス号漂流』(新潮社)、ボブ・グリーン『デューティ』(光文社)他、訳書は200冊以上。

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