第二の故郷 北海道について②
つまり、僕は北海道へ来てそろそろ30年近くになりますが、実は未だに、第二の故郷という言い方にはしっくりこないものがあるのです。故郷と言えば、友人や知人に囲まれ、横道や裏道にも精通し、何をやるにしても無理がなく、ゆったりと生きられるところ……僕にはそのように思われます。
ところが僕は北海道へ来てから、そのような “故郷” を創ることに失敗したようなのです。友人や知人はどこへ行ってしまったのでしょう。家族が健在であることは救いですが、僕は横道や裏道もほとんど知りません。そのような近くの道よりも、北海道中をバイクで走り回りたいのです。このように落ち着きのない老人であることに、僕は未だに終止符が打てないのです。打つ必要があるのかどうか、それさえも一向に見当が付きません。
僕はかつて、日本海沿いを北上していた折に、凄まじい海風に翻弄され、建っているだけで十分と思えるような小さな家を見たのです。その家の窓は内側からビニールで覆われていましだが、その一部分がめくれ上がって、赤い大きな花が咲いていたのです!
それを目にしたとたん、僕は感動に胸が震えました。今考えれば、それは何でもない普通の話でしょう。しかしその時は、この苛酷な天候の辺鄙な土地で、しかも隣近所に家もないような所で、窓辺に花を飾ることの華やかさを思ったのです。
僕が北海道を思う時、まず最初に心に浮かぶのがその窓辺にひっそりと佇んでいた一輪の赤い花なのです。それ以降、到る所で窓辺に飾られた花を見てきていますが、その一輪の花だけはもうはっきりと僕の心の中で生きているのです。
それが僕にとっての北海道の原点です。北海道とは……侘しさの中に華やかさがある。これは決して、その逆ではありません。それを見間違えないようにすることこそが、北海道への “愛情” ではないかと思うのです。