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小説と剣道、そして翻訳家に
一方、僕は30代から、暇なときに小説を書いてきました。
それはしかし、小説家になりたいという思いからではありませんでした。
僕は大学を8年かけて卒業しましたが、それは何も勉強がしたいわけではなく、卒業をしたら何をしたいのかという答えが手に入らなかったからなのです。何か当時の流行のような気もしますが、僕の大学では他に僕みたいにルーズな人間は見当たりませんでした。
僕は昔から剣道をやっており、中学一年から昔風の野蛮な剣道に鍛えられてかなり強かったのです。
大学卒業の前年に、僕は剣道で身を立てようと考えました。
卒業から30歳までの5年間、みっちり稽古すればかなりの段数になるだろう。では、それまでの生活をどうするかだ。結婚もしなければならない。女房は結婚して家に籠るよりも仕事をしたいと言っていたので、僕が小遣い稼ぎをすればなんとかなるんじゃないか、と考えたのです。
そこで思いついたのが “翻訳” でした。
僕は実は、剣道のほかにやりたいことがあるとすれば、それは作家業でした。
大学三年の時に一度退学して、何か書こうとしたのですが、結局は一行も物にならず、半年後に再受験してまた同じ大学に通うことになったというお粗末な事情があるのです。
文芸翻訳家の僕が80歳で小説家デビューするまで ④
翻訳家になったころ
そんな僕にとって、翻訳業とは魅力的な職業だったのです。翻訳業といっても、僕がやるのは文芸翻訳だけでした。
僕はユニ・エージェンシーという翻訳事務所に登録し、翻訳家になりました。