翻訳家の事件簿-最終章 書き足し事件 #2
これは、僕が意図したように、あっさりと引き下がれる問題なのか、ということです。僕は構わないにしても、編集者はどうなのか。原稿をきちんと検索していないことがはっきりしているではありませんか。彼とはもう何十年もの付き合いで、互いの手の内はわかっていると言うつもりだったのでしょう。しかし、担当者が渡された原稿を見ないとは?
僕はやはり悔みましたね。ちょっとした冗談のつもりだったのに、とんでもないことになった、そんな気がしたのです。しかし仕方がありません。僕は彼に電話をして、僕のやったケチな悪戯を打ち明けました。
彼は笑って、いや、いいよと言ってくれましたが、思うに、それ以降の僕とその出版社との関係はしっくりいかなかったように思うのです。やはり、この原因は僕の思い上がった行為にあるようです。それはわかります。彼にもそのことは謝らねばなりません。
でも、と僕は思うのです。やはり作品は自分の全責任で書くべきではないのか、と。どこかで文句が出た場合には、それに応える必要があるのではないか、と。いずれにせよ、それ以降です、僕がますますオリジナル作品を書くようになったのは。
やはり、ものを書くにはオリジナルが一番だと思います。褒められるのもけなされるのも、自分だけの責任でいいのです。そして僕は思いました。もし僕が作家で、僕の作品を翻訳してくれた誰かが、気に食わないと言って、僕のように書き足してくれたとします。さて僕はどう思うでしょうか。やはりこれは、僕の若き日の大失敗だと思いますね。