目次
山本光伸の翻訳教室 ⑤
☆ 文法について
乱暴な言い方かもしれないが、文法に拘る方で翻訳家として一本立ちした人を見たことがない。もちろん例外はあるだろうし、文法抜きで翻訳を語れないことは百も承知だ。それでもやはり、文芸翻訳の世界に文法から入ってくるのはどこか間違っているとしか思えない。ご当人は自信満々、それが当然だと思っているのでますます扱いがたい。
文芸作品の文章をすべからく文法で、つまり理詰めで理解しようとしている、あるいはできると思っているらしいところが、私には理解できないのだ。文章はまず、読むことの楽しさから始まる。そこには文法ははいってこない。ここが一番の作家の腕の見せどころなのだ。
文法は、文章を理解するうえで助けになることがある。それはもう間違いない。時制と単複に気を配るだけで、誤訳の半分は減るだろうと私は思っているぐらいだ。しかし、原文を理詰めで理解することと、それを母語で表現することとは全く別の作業であることをしっかり胸に刻んでおいていただきたい。
先ほども書いたように、文章はまず読むことの楽しさから始まる。そこに文法から入るなど愚の骨頂だろう。我々は長らく本を読んできている、しかも文法の協力なしに。たとえ、第二外国語の小説であれ、まずは楽しんで読むことから始めなくてはならないのだ。
子どもはまず読むことから始める。彼らに文法から教えようなどという教師がいるわけはないだろうと思う。十分に独力で読んでから、初めて文法が登場するのだ。つまり、文法は読書のあとにくるものなのだ。辞書を振り回す人に読書家はいないと思っている。辞書を見るヒマがあるなら、一冊でも多くの小説を読むべきなのだ。
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僕はこれまでに、柏艪舎から翻訳に関する本を2冊出しています。『誤訳も芸のうち』と『R・チャンドラーの「長いお別れ」をいかに楽しむか』です。一作目は、文藝翻訳は一生の仕事足りうるか、という副題が付き、二作目は、清水俊二、村上春樹、そして山本光伸の訳文を併記し、何所がどう良くて何所がどう悪いのかを列記しています。また翻訳と言う作業のコツみたいなものがわかってもらえるかもしれないとも書いてあります。
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山本光伸 翻訳教室 ②
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ここには誤訳が一つと、僕が先ほど得意げに述べた、日本語と英語の表現方法の明確な違いがあります。この二つに僕が気付いたのは、丁寧に英文と日本文を読み比べたからではなく、あくまでも英文(つまり訳文)を読んでいて、おかしいなと思ったからなのです。僕がいつも言っている、オリジナルを書くように訳せ、の面目躍如と言ったところですね。
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山本光伸 翻訳教室 ③
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ではついでにもう一つ、スティーヴン・キングの秀逸な短編『ウェディング・ギグ』(The Wedding Gig)の中に、次のような一節があります。この短編は、妹思いの愛すべき小悪党スコレィの、大いに愉快で、ちょっぴり切ない物語です。
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☆文芸翻訳家への近道
言うまでもなく、近道などあるわけがなく、より“確実な道”と言い換えるべきだろう。
それは、自分で小説を書いてみることである。
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☆文法について
乱暴な言い方かもしれないが、文法に拘る方で翻訳家として一本立ちした人を見たことがない。
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☆automatically
私は副詞の訳し方がいちばん難しく、だからこそいちばん面白いと思っている。
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☆原作の香り
文芸翻訳家志望の方の中には、原作の香りを生かした翻訳をしたいと考える人が多いようだ。
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☆距離
文芸翻訳にとって大切なものは、原文と訳文との距離感だろう。初心者であればあるほどほどこの距離感に無頓着で、テキストが何であれ、自分のリズムでしか訳せない。
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☆訳者と読者
翻訳家は自分の訳した原文をどれほど覚えているものだろうか。個人差があって当然だが、私はほとんど覚えていない。